東京・早稲田で別注封筒の企画製造を手がける株式会社太陽堂封筒。その自社ビル 3、4 階のリノベーションを行いました。「健康経営」や「女性の活躍推進」を経営理念に掲げる同社が今回のリノベーションを決めた意図、こだわりや変化などについて吉澤和江社長と池田孝治部長に伺いました。
職場環境の向上をめざすリノベーション
元は社長のご自宅をリノベーションする件でご連絡をいただいたそうですが。
吉澤:ええ。結局自宅は別の方にお願いしましたが、同じ時期に会社のリノベーションも考えていたので福井さんにお願いしました。実は女性社員が増えているにも関わらず、男女の更衣室や全員で食事ができる部屋がなかったんです。そこで私の住居だった 4 階をその二つに充て、3 階のオフィスも使いやすくしたいなと。私が平成 26 年に印刷連合組合の女性活躍推進室委員長を拝命し、女性活躍加速化助成金の支給も受けたこともあり、製造業でも女性が活躍できることを伝えたいとの想いも込めてお願いしました。
ご要望としてはどのような内容だったのでしょう。
吉澤:「明るくて風通しがよく、みんなが集えるやさしい空間」とお願いしました。抽象的な内容しか伝えませんでしたが、どの場所に何が必要か、社外秘書類の保管など当社に必要な要素を把握した上で、使い勝手や心地よさにこだわった空間やデザインを提案くださったので驚きましたね。福井さん自ら当社のビルや仕事を見学され、各部署の作業内容や動線を確認されていたのが印象的でした。
空間と工夫が生み出したコミュニケーション
福井の提案で「これは」と思われた所はありますか?
吉澤:まず明るさと清潔感。リノベーションした感じがしないというか、4 階に昔からあったようななじみのあるデザインもすごくいいなと。特に驚いたのは床。別注封筒をつくる会社だからと複数の床材を組み合わせ、使ううちに味が出るようになっているんですよね。
池田:このビルは 1989 年に前社長が建てられたんですが、建物を活かしつつ、弊社の 60 年の歴史を感じさせてくれるデザインなので感心しました。背景を汲み取る力をお持ちなんでしょうね。残す所と変える所のバランス感もすごいですし、コンクリ壁が覗く自然さもすてきですよ。
吉澤:父が昔に書いた看板を休憩室の目につく位置に据えてくれるとか、旧いものを今のデザインに表現することに長けておられますよね。
その他の設えはいかがでしょう。
吉澤:お気に入りはタイル貼りのキッチンです。当社では月 1 回のポルフ(工場改善活動)の一貫として私の手づくりカレーを皆で食べる活動があるんですが、そこで使いたいと伝えたらこの風通しのいい明るい形にしてくださって。時間がある時はお昼にお味噌汁をつくって社員に呑んでもらうのですが、それが生まれるきっかけにもなったんですよ。
なるほど。社員さんへの影響などはありましたか。
吉澤:ええ、以前は機械の横でバラバラでお昼を食べていたわけですからね。ただ人の動きを変えるには「部屋ができたからハイどうぞ」ではなく、私たちの誘導や工夫も必要なんだと思いました。最初は皆慣れなかったのか集まりが悪くてね。そこでキッチンもあるからとお味噌汁を出したら集まりがよくなり、今ではここで話しながら食べることが日常になりました。
新たな空間に社長のアイデアが加わることで社内が変わっていったと。
吉澤:はい。封筒の制作には工程が複数ありますが、お昼休みに前後の工程に関して話せるようになったのがすばらしいです。クレームを減らしてよい製品をつくるには、社員同士のコミュニケーションが不可欠です。今は職人も仕事だけできればいい時代ではなくなったけど、口下手な方はやっぱり多いですからね。そんな方にも話しやすい環境ができたと思います。
明るさと心地よさの威力なんでしょうか。
吉澤:そう思います。それに製造業は真面目な人が多いから、特に暗い地下で働く社員は気をつけてあげないと鬱になる可能性もあるんです。毎日お昼時に光を浴びれば、きっと気持ちも緩むでしょう? これからは経営者として「健康経営」が必須だと考えていますが、その意味でもこの空間は大切ですね。勉強会やセミナーはもちろん集団検診などもここでできるんですよ。
製造業の動線と整理整頓を重視する
いくつもの役割を担っているわけですね。では、3 階オフィスはどうですか。
吉澤:作業台と共有スペースを中央に置き、壁向きの個人デスクで囲むというご提案で、椅子から立てば向こう側とも会話でき、個人作業は壁向きで行うので気が散らないとのことでなるほどなと。動線もしっかり考えられ、台車での移動も楽になりました。
細かい部分のポイントがあれば教えてください。
吉澤:独特なのは、フィルムケースの保管やケンタの小屋かな。まずフィルムケースは4階に保管部屋をつくることになったので、ポルフに準じた「シングル取り出し」用棚を制作いただきました。管理も徹底できるようになり使いやすくなりました。ケンタの犬小屋は、実は私も入ったことがあるくらいのお気に入りです(笑)。カバーには冬用と夏用があるので季節で衣替えしています。仕事中に歩く姿を見るだけでも和みますよ。
「ここにいられるだけで幸せだと思える場所」
リノベーションされての感想などをいただければ。
吉澤:お願いして本当によかったですね。気持ちがいい部屋にいると幸せな気分になれるんです。明るくて涼しくて「ここにいられるだけで幸せ」と思える場所を社員の皆に提供できていると思うと嬉しいです。
池田:福井さんのデザインは使う人が色をつけられる部分が残ってるんですよね。その余白を今後はもう少しうまく使えたらいいですね。
ルーヴィスの長所があれば教えてください。
吉澤:最後まで責任を持ってくれるので、終わった後も「ここを変えたい」とお願いできるところ。父が頑丈に建ててくれたビルも時代が変われば使い勝手は悪くなります。改装は随時必要になると思うので、その時にまたお願いしたいと思える信頼関係は大きいですよ。
包む文化に寄り添い、人の集まる企業をめざす
御社の今後の展望を伺えますか。
吉澤:品質を向上させる上で最も確実なのは内製です。でもこの地区で内製を続けるには、土地代含めさまざまな難しさがあるんです。近辺の協力企業も後継者問題や社員集めに苦心する状況ですしね。ただ、その諸々を差し引いても地の利は大きいので、やはりこの場所でどう生産効率を上げ、高品質なものづくりをするかが重要かなと。その上で、次の世代も活躍できるよう社員を大切にし、人が集まる会社にしたいと思います。
ぜひ技術を未来に伝えて、元気に活動を続けていただきたいです。
吉澤:ええ。会社を継いだ頃は IT 化で封筒もなくなると言われましたが、DM やコレクションの文化は残っています。字を書いて自分を表現する行動への揺り戻しもあると私は思います。書くことや包む文化は続くはずですから、そこに会社としてどう関わっていくかを考え続けたいですね。